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2026/06/01eラーニングの知識
企業の人材投資の現状|厚労省「能力開発基本調査」から見るeラーニング活用の打ち手

「自社の人材投資は、世間と比べて十分なのか」。経営層や人事担当者が一度は感じる問いです。研修や教育の費用は、目に見える売上に直結しないため後回しになりがちで、気がつくと数年単位で見直しがされていないこともあります。一方で、人的資本開示が上場企業に義務化されるなど、人材投資の実態を社内外に説明する重みは確実に増しています。
本記事では、内閣官房と厚生労働省の公的データから、日本企業の人材投資の現在地を整理します。そのうえで、限られた予算の中で投資効率を引き上げる打ち手として、eラーニング(オンラインで学習を配信し進捗を管理する仕組み)の活用方針を解説します。
日本企業の人材投資はどれくらい低いのか
まず国際比較の数値を見ると、日本企業の人材投資の小ささは突出しています。内閣官房「新しい資本主義実現本部」が公表した「賃金・人的資本に関するデータ集」では、企業の人的資本投資(OFF-JT支出)の対GDP比が国別に整理されています。2010〜2014年平均値で見ると、日本は0.1%。これに対して米国は2.08%、フランス1.78%、ドイツ1.20%、イタリア1.09%、英国1.06%です。

日本の人材投資は、先進国の中でも文字どおり一桁少ない水準で推移してきました。さらに同データでは、日本だけが他国と比較して低下傾向であることが示されています。人材は経済学的には「資本」の一種ですが、設備投資のように貸借対照表に載らないため、削っても見えにくい性質を持ちます。長年の節約の積み重ねが、現在の差として現れていると見るのが妥当です。
厚労省「能力開発基本調査」が示す企業の研修実態

国際比較だけでなく、国内の最新の実態を厚生労働省「令和6年度 能力開発基本調査」から見ていきます。本調査は企業・事業所・労働者個人の3層を対象に毎年実施されており、企業の研修投資の規模感を把握するうえでもっとも信頼できる一次データの一つです。
教育訓練費を「支出した」企業は54.9% — 約45%は研修費ゼロ
OFF-JT(業務から離れて行う集合研修・eラーニングなど)または自己啓発支援に教育訓練費を支出した企業は54.9%。裏返せば、約45%の企業が直近年度で研修費をまったく計上していないということです。会社規模が小さくなるほど未支出の比率が高くなる傾向もあります。
OFF-JT費用は1人あたり1.5万円 — 月額換算で約1,250円
OFF-JTの労働者一人当たり平均額は1.5万円。月額に換算すると約1,250円です。これに自己啓発支援費用(一人当たり0.4万円)を合計しても、年間2万円弱という水準です。書籍1冊・セミナー1回分程度の予算で、1年間の能力開発をすべてまかなっている計算になります。
事業所の79.9%が「能力開発に問題あり」と回答
事業所調査では、能力開発・人材育成に何らかの問題があると感じている事業所は79.9%にのぼります。問題点の上位は「指導する人材が不足している」(59.5%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(54.7%)、「人材育成を行う時間がない」(47.4%)です。8割の事業所が「問題あり」と認識しながら、投資は月額1,250円水準にとどまっている、という大きなギャップがあります。
投資が低いまま続いている3つの構造要因
研修費が約45%の企業で計上されない背景には、単なる予算の問題以外に構造的な要因があります。代表的な3つを整理します。
要因①: 効果測定の難しさ
研修は実施直後の効果が見えにくく、売上や生産性との因果関係を1対1で結びにくい性質があります。経営層が「やった方がよさそうだが、結果が見えない」と判断する状況が長く続けば、削減の対象になりやすいのが実情です。
要因②: OJT中心の文化と「現場任せ」
日本企業の人材育成はOJT(業務を通じた現場での指導)が中心です。OJTは費用が見えにくく、現場の余裕がある時代には機能してきましたが、業務量が増え人員が減る中で「指導する人材の不足」と「育成時間の不足」が同時に表面化しています。OJTの限界と打ち手はOJTによる教育とは? やり方や計画すべきことでも整理しています。
要因③: 短期業績と人材投資のトレードオフ
研修費は固定費の一部として計上されるため、短期業績を改善したい局面でまず削減対象になります。人材投資は中長期に効くため、四半期ごとの数字に追われる経営では優先度を上げにくい構造です。経済産業省「未来人材ビジョン」が示すとおり、社外学習を行わない人の割合が46%でG7各国中ワースト1位という結果も、この構造の累積として現れています。
自己啓発の実施手段1位は「eラーニング」

能力開発基本調査の労働者個人向け設問では、自己啓発を実施した人の選んだ手段の1位は「eラーニング(インターネット)」でした。正社員でも正社員以外でも、もっとも選ばれる手段になっています。一方、自己啓発の問題点の上位は「仕事が忙しくて自己啓発の余裕がない」「家事・育児で余裕がない」と続きます。学びたい意欲はあるが時間の制約で学べないという現実に、eラーニングが構造的にもっとも合致する手段であることをデータが裏付けています。
企業側から見れば、社員がもっとも選びやすい学習手段を会社として整えることが、低い投資額のなかで効果を引き上げるもっとも素直なアプローチになります。
eラーニング活用が人材投資の効率を引き上げる3つの理由
限られた研修予算でeラーニングを軸に据えると、人材投資の効率は次の3つの観点で大きく改善できます。
| 観点 | 従来型研修の課題 | eラーニング活用の打ち手 |
| 投資効率 | 集合研修は1回あたりの単価が高く、参加できる人数も限られる | 同じ教材を全社員に何度でも配信でき、1人あたりコストを大幅に下げられる |
| 学習の均一性 | 研修受講機会が拠点・職種・勤務形態でばらつく | 全社共通の標準教材で、全員に同水準の知識を届けられる |
| 効果の可視化 | 受講したかどうか、何を理解したかが追跡しづらい | 受講ログ・テスト結果がLMS上で全件残り、人的資本開示の根拠データに活用できる |
特に重要なのは3つ目の「効果の可視化」です。2023年3月期から、上場企業には人的資本に関する開示(人材育成方針・社内環境整備方針など)が義務化されています。LMSの受講ログは「会社が社員にどのような教育機会を提供したか」を定量的に示す根拠資料として、開示の柱に育てられる資産です。LMSの選び方はLMS選定で失敗しない選び方を、費用対効果の組み立て方はeラーニング導入の費用対効果を徹底解説を参考にしてください。
人材投資を立て直すための初動 — 3つの実務ステップ

「うちは研修費がほとんど取れていない」と感じる場合でも、いきなり予算を倍にする必要はありません。次の3ステップを順に踏むだけで、投資対効果と説明可能性の両方を引き上げられます。
ステップ1: 自社の現在地を数字で把握する
まず、過去3年間の研修費・受講者数・受講完了率を集計します。能力開発基本調査の平均値(OFF-JT費用1.5万円/人など)と比較すれば、自社の水準が国内平均からどれだけ離れているかが見えます。経営層へ提案するときの説得材料としてもこの「現在地」が必須です。
ステップ2: コンプライアンス・共通知識をeラーニングへ集約する
全社員に等しく届ける必要のあるテーマ(情報セキュリティ、ハラスメント、コンプライアンス、新入社員向けの基礎研修など)からeラーニング化を進めると、もっとも投資対効果が出やすくなります。同じ教材を毎年使い回せるため、累積でコスト効率が上がります。具体的なテーマの例はコンプライアンス研修にeラーニングが役立つ理由でも整理しています。
ステップ3: 学習データを人的資本開示と連動させる
LMS上に蓄積された受講ログ・修了率・テスト結果を、人的資本開示の指標(研修時間・研修費用・スキル習得率など)と紐づけます。経済産業省が示す「人的資本可視化指針」の方向性とも整合する取り組みで、社外への説明力と社内での投資継続の根拠の両方を強化できます。
まとめ — 投資額より「投資の質」で勝負する
日本企業の人材投資は、対GDP比0.1%という国際的にもっとも低い水準で長年推移してきました。能力開発基本調査でも、約45%の企業が研修費を計上せず、計上していても1人あたり1.5万円という限られた予算で運用されている実態が見えます。一方で、事業所の8割は能力開発に問題ありと感じており、社員自身ももっとも選ぶ自己啓発手段はeラーニングです。
限られた予算を一気に倍にすることは難しくても、eラーニングを軸に据えれば、投資効率・学習の均一性・効果の可視化という3つの観点で投資の質を引き上げることができます。人的資本開示の流れも追い風です。「投資額の大きさ」よりも「投資の使い方」で差が出る局面に入っています。自社の現在地を数字で把握するところから、見直しを始めてみてください。
よくある質問
Q1. 自社の研修費が国内平均と比べて多いのか少ないのかを知るには、どの数値を見るべきですか?
もっとも比較しやすいのは「労働者一人当たりのOFF-JT費用」です。厚労省「能力開発基本調査」の最新版では1.5万円が全国平均なので、自社の年間研修費を社員数で割って比較してください。あわせて自己啓発支援費用(全国平均0.4万円)と教育訓練休暇制度の有無(導入率7.5%)も合わせて確認すると、自社の人材投資の輪郭がより立体的に把握できます。
Q2. 研修費がほとんど取れていない場合、何から始めるべきですか?
まずは現状の数字をきちんと集計するところから始めてください。過去3年間の研修費・受講者数・完了率を出し、能力開発基本調査の平均値と並べると、経営層への説明材料が一気に整います。そのうえで、全社員に必須のコンプライアンス系・基礎研修からeラーニング化を進めると、同じ教材を翌年以降も使い回せるため累積で投資対効果が高まります。
Q3. 人的資本開示にeラーニングはどう役立ちますか?
eラーニングを運用する学習管理システム(LMS)には、受講ログ・修了率・テスト結果が全件残ります。これらは人的資本開示で求められる「研修時間」「研修費用」「スキル習得率」などの定量指標として、そのまま活用できます。とくに上場企業や開示準備中の企業にとって、データが残らない集合研修だけに頼るより、LMS上に学習データを集約する方が、開示の根拠資料を作りやすくなります。
Q4. eラーニングだけで本当に効果は出ますか?
すべてをeラーニングで完結させる必要はありません。共通知識・基礎知識のインプットはeラーニング、議論やロールプレイなど対面の利点が出る部分は集合研修、現場での実践はOJTというように、目的別に手段を組み合わせるのが現実的です。eラーニングは「集合研修やOJTに置き換える」のではなく、「効率化と均一化に強い手段として組み込む」という位置づけで運用すると効果が出やすくなります。
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