交流を促して学習意欲を高める~すがやみつるさん特別インタビュー(5)

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画像:京都精華大学ホームページより

―――――教育心理学系や臨床心理学系、コーチングといった分野の研究者の方々から注目された副次的な成果とはどういったものだったのでしょうか?

すがやさん
「4コマ漫画を描く実験に参加してくだった皆さんは、事前のアンケートをみると、大半の方が「4コマ漫画を描けるかどうか自信がない」と答えていました。またストーリー漫画についての質問でも同様の答えでした。ところが実際にeラーニングでの指導を受け、30分ほどで笑える4コマ漫画を完成させた人のほとんどが、事後のアンケートで「4コマ漫画を描く自信がある」と答えてくれたのです。しかも、未体験のストーリー漫画についても、多数の人が「描く自信がある」と答えてくれました。
 自信のない未体験のことに挑戦し、その目標が達成できることがわかると、自信をつけただけでなく、さらに高い目標にまで目を向けるようになったわけです。
 実のところ私の関心は、「漫画の未体験者に、いかに4コマ漫画を完成させるか」という漫画の描き方のメソッド作りのみに向けられていたのですが、心理学の研究者の皆さんは、受講者が「やる気」をかき立てられたことに注目してくださっていたのです。私にとっては予期せぬ指摘で、まさに副次的な成果となりました。
 さらに、これらの指摘をヒントにして、本学1年生の授業や大学説明会の高校生を対象にした模擬授業で同じ4コマ漫画づくりの対面授業をしたときに、受講者同士がお互いの作品を批評し合うピアレビュー(peer review)をするようになりました。ピアレビューは直訳すれば「仲間同士の批評」ですが、もともとは研究者同士が論文を相互に批評する「相互査読」のことになります。いま大学の大人数授業でも、学生同士がレポートを相互採点するピアレビューが盛んになっていますが、私は、これをイラストや漫画の相互批評に応用してみたわけです。
 ただし、日本の高校生や大学生は、批評という行為に慣れていません。とりわけイラストや漫画を描くのが好きな若者は、ちょっとでも批判的なことを言われると、極度に落ち込んだり怒り出したりと、過剰な反応をしがちです。そこで私の授業では、互いの作品を批評するときに、「2分間、ひたすらほめ続ける」というルールを採用しています。
 2分間ほめ続けるのは、とても大変です。大学1年生や高校生では、すぐにほめるための語彙が尽きてしまいます。「鉛筆の消し忘れが美しいといったコジつけでもいいからほめて!」と、とにかく休まずにほめることを強要するのですが、ほめる方もほめられる方も、照れくささが加わって、誰もが笑顔になってしまいます。教室中に笑顔があふれ、室内が幸福感で満たされるような気分になります。
 これを隣同士の席、前後同士の席、斜め同士の席と繰り返すのですが、この経験を通じて、受講者同士の心理的な距離が一挙に縮まります。初対面の人同士が出会う際に、緊張を解きほぐすアイスブレイクと呼ばれる機能も果たしているわけです。
 大学では、次週の授業でもピアレビューを実施しますが、「ひとつだけ批判的なことを言ってもいい。ただし、その場合は、必ず代案も提案すること」と、少しハードルを高くします。しかし、前週で「信頼感」が醸成されているせいか、多少の批判が含まれた批評でも、反発することなく受け入れるようになります。4コマ漫画の授業は、このような学生のコミュニティの育成にも役立っているようで、これも副次的な効果だといえるのかもしれません。
 漫画家やイラストレーターを目指す高校生や大学生の中には、これらの職業なら「人づきあいをしないですむ」と考える人がたくさんいます。担当するコースでも、他人と上手くコミュニケーションが取れない、と自称「コミュ障」(”コミュニケーション障害”の略)の学生が半数以上にもなるほどですが、実際の仕事となると、打ち合わせと会議の連続で、他人とのコミュニケーション抜きには作品づくりもできません。
 日本の教育ではスピーチや討論といった活動に対する意識が低く、欧米に比べてそういった能力の育成が図られていません。お互いの作品を批評し合うといった活動を通して学習者コミュニティの形成が進むことで、それぞれが自分の作品を臆せず発表することができる訓練になればと考えたのも、このような授業をデザインした理由のひとつです。」

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画像:京都精華大学ホームページより


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